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山口地方裁判所 昭和26年(行)20号 判決

原告 浅川宗太

被告 小郡町選挙管理委員会

一、主  文

被告委員会が昭和二十六年三月二十九日になした「小郡町議会解散署名簿の署名に関する内田真助外十一名より異議申立は正当であり該署名簿は全部無効とする」との旨の決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告委員会の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求めその請求原因として原告は小郡町議会解散請求代表者であるが昭和二十六年一月二十九日小郡町当時の有権者七千八十九名中三千九百三十九名の署名を得て解散請求署名簿を被告委員会に提出し地方自治法第七十六条第四項第七十四条の二第一項の規定に基く証明を求めたところ被告委員会は法定の期限内にその審査を終えて有効署名の総数を三千四百五十九と決定し同年二月十六日署名簿の縦覧を開始した。ところが右縦覧期間中なる同月二十二日関係人内田真助外十一名の者が右署名簿の署名に関し被告委員会に異議を申立てたのであるが、被告委員会は法定の期間を過ぎた同年三月二十九日に至り右異議の申立は正当であり右署名簿は全部無効とするとの決定をなし同月三十日同署名簿を原告等請求代表者に返付した。しかしながら被告委員会の右の決定は全く根拠のないものであるからその取消を求めるため本訴に及んだと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張事実は被告委員会の決定が無根であるとの点を除き全部これを認める。しかしながら被告委員会は訴外内田真助等の異議申立の理由第一点に述べている様に解散請求代表者は小郡町議会における県庁並びに県耕地出張所誘致費用支出に不明朗性があつて町議会に対する不安不信はその極に達していると虚構の事実を理由として署名を求めたので署名者はこれを真実であると誤信して署名したものであり従つて右は詐欺に基くから無効であると認めた結果原告主張署名簿の署名を全部無効としたのである。而して右は地方自治法第七十六条第四項第七十四条の三第二項により被告委員会が異議申立人の提出した疏明資料その他を自由心証によつて判定したものであるから結局原告は被告委員会の自由裁量処分を攻撃してこれが取消を求めるに帰し違法処分の取消を求めるものでないから原告のかゝる請求は認容されるべき筋合でない。仮に然らずとしても原告は本件決定に先だち昭和二十六年三月二十四日小郡町議会議長内田真助方において小郡町長原田清作正副町議会議長外議員五名に対し議会解散請求は小郡町のためこれをしない。従つて被告委員会の決定が如何になつてもこれに対し不服の出訴をするようなことはない旨言明しその旨を居合わせた被告委員会委員の一人である木浦令一を介して被告委員会に通達している。而して同月三十日被告委員会から請求代表者の一人である久富間吾に本件決定を告知し署名簿を返付した際同人も亦出訴しない旨言明している。従つて原告は予め出訴権の不行使の意思表示をしているのであるから本訴は原告の真意に出たものとは解し難いし、又仮に真意に出たものとしても出訴権を抛棄した原告の本訴提起は違法であると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が小郡町議会解散請求者の代表者であつて昭和二十六年一月二十九日小郡町当時の選挙権者七千八十九名中三千九百三十九名の署名を得て解散請求署名簿を被告委員会に提出し地方自治法第七十六条第四項第七十四条の二第一項の規定に基く証明を求めたところ被告委員会が法定の期間内に審査を終えて有効署名の総数を三千四百五十九と決定し同年二月十六日の署名簿の縦覧を開始したこと及び右縦覧期間中同月二十二日関係人内田真助外十一名の者が右署名簿の署名に関し異議を申立てたところ被告委員会が法定の期間を過ぎた同年三月二十九日に至り右異議の申立が正当であり右署名簿を全部無効とするとの旨の決定をなし同月三十日該署名簿を原告等請求代表者に返付したことは当事者間に争がない。而して成立に争のない甲第一号証、第六号証の一乃至五の各記載に証人白石辰夫、藤村節正、友沢博、高村克己、伊東俊一の各証言を綜合すれぼ少くとも右白石、藤村、友沢、高村、伊東の五名は主として小郡町議会の運営が兎角円満を欠き一部少数派議員の力に圧倒せられて多数派議員の意思が無視せられたために半数以上の議員が辞職願を提出したところ残留少数派議員は右辞職願を提出した者の一部に辞職願を撤回させて補欠選挙の方法によつて欠員を補充するに至らしめたなどの事実から町議会は民主的でなく此の際議会を解散させて新議員を選出するのが正当であると判断した結果右解散請求署名簿に署名するに至つたのであつて小郡町議会における県庁並びに県耕地出張所誘致費用支出に不明朗性があつて町議会に対する不安不信がその極に達しているとの点は少くとも右五名に対しては右署名の動機とはなつていないことを認めることができ反証はない。加之被告挙用の証拠によれば被告委員会は当初有効署名の総数を三千四百五十九と決定し関係人内田真助等から異議の申立を受けた後右有効と決定した署名の各個につき格別の調査を遂げることなく解散請求代表者と議会側との間に妥協が成立したことを聞知した結果、右異議につき如何様の決定をしても事後紛争を生ずることはないと考え右異議申立の理由第一点に解散請求代表者は小郡町議会における県庁並びに県耕地出張所誘致費用支出に不明朗性があつて町議会に対する不安不信はその極に達していると虚構の事実を理由として署名を求めたので、署名者はこれを真実であると誤信して署名したものであり、従つて右は詐欺に基くから無効であると主張せられているのに便乗して安易の道に就き本件決定をなすに至つたことを推察するに十分である。被告は本訴が被告委員会において地方自治法第七十六条第四項第七十四条の三第二項に基き異議申立人の提出した疏明資料その他を自由心証によつて判定した結果を批議し被告委員会の自由裁量処分を攻撃してこれが取消を求めるものであつて違法処分の取消を求めるものではないから失当であると抗争するけれども、解散請求署名簿の署名に関する異議についての決定は厳格な法覊束の処分であつて選挙管理委員会の自由裁量に委されているものではなく本訴はその違反を主張して本件決定の取消を求めるものと認められるから被告の右抗弁を採用することはできない。次に被告は原告が本件決定に先だち同年三月二十四日小郡町議会議長内田真助等に対し議会解散請求は小郡町のためこれをしない従つて前記異議についての被告委員会の決定が如何になつてもこれに対し不服の出訴をするようなことはない旨言明して出訴権を抛棄しているのであるから本訴請求は失当である旨抗争するからその当否について按ずるに原告挙用の証拠によれぼ原告と解散請求代表者の他の一名久富間吾の両名が右日右内田真助等に対し議会解散請求はしない。又前記異議について被告委員会が如何様の決定をしても異議は述べないとの趣旨を言明したことを認めることができるけれども証人木浦令一の証言によれば原告等が右の言明をしたのは右内田真助等に対してのことであつて被告委員会に対してなされたものではないことを認めるに十分である。そうすると仮に本件の如き場合に於ても訴権の抛棄が許されるとしても抛棄は被告委員会に対する意思表示によつてされなければその効力がないと解するのが相当であるから訴外内田真助等に対してなした本件決定に対し不服を述べないとの約定は原告と被告委員会との間に訴権の抛棄としての効力を発生するに由ないものと謂わなければならない。従つて被告の右訴権抛棄の抗弁も到底採用することはできない。以上説明したところで被告委員会の本件決定の違法なことが明かであるからその取消を求める本訴請求は正当である。よつて原告の請求を容認し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 御園生忠男 黒川四海 住居君彦)

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